法律とスポーツ。この2つの言葉の組み合わせから、読者のみなさんは何を思い浮かべますか? 「代理人!」と答える方が多いことでしょう。野球やサッカーなど、トップスポーツ選手の“エージェント”として活躍する弁護士の方の注目度もここ10年もしないうちにかなり高くなってきています。
しかし、そうした代理人ではないスポーツの分野で活躍する法律家の方がいます。それが、今回インタビューさせていただいた谷塚哲さんです。「トップよりも、裾野のほうが多くのニーズがある」と、全国のスポーツクラブから法律に関する問い合わせを受けています。行政書士としての立場から、クラブの設立や運営を見ています。
今回の「人から見るスポーツ」は、クラブの運営者や教授陣ではなく、ちょっと違った視点からお送りします!
≫≫ 3年前まではサッカー一色
スポーツを始めたのは小学校くらいですね。僕らが小学生のときは大体野球がメインでして、普通に野球の少年チームに入っていました。小学校4年生か5年生にキャプテン翼が流行ったときに、野球と掛け持ちでサッカーを始めました。中学校からはサッカー一本になりましたね。
中学校は、埼玉県では一応県大会で優勝してとか、そのぐらいのレベルでやっていました。中学では県の選抜のキャプテンとかやっていて、そのまま高校に行きました。高校では一応全国大会にも出て、そのまま大学行ってという感じです。大学でも4年間ずっとサッカーをしていました。
僕が高校を卒業するときって、まだJリーグがなかったんで、サッカー続けたいって奴は普通大学へ行ったんですよ。けど、大学4年が経つとちょうど、川口とか前園とか城とかいわゆる高卒ルーキーがもてはやされたとき。大卒ルーキーっていうのはそんなにいなかったんです。僕はどっちかって言うと、仕事続けながらもある程度のレベルでサッカーを続けたい、要は社会人サッカーみたいな感じで続けたいなと思っていたんです。
たまたま大学卒業する4年生のときに、地域リーグ・関東社会人リーグのあるクラブチームに誘われたんです。ちょうどいいなって思って、自分で仕事は見つけながら、そっちのクラブチームで3年前、30歳までサッカーメインでやっていました。
≫≫ そして行政書士へ
自分でも引退だなっていう時期分かるときってあるじゃないですか。27、8くらいになると。それで将来のことを考えたときに不安があって。今の仕事を続けていてもいいんだけど、自分のメインであるサッカーがなくなったらつまらないなっていう恐怖心みたいなのをすごく感じたんですよ。
ただ、もう体が動かなくなって、ついていかなくなっちゃったら駄々こねていてもいられないし、仕事していかなきゃいけないと思ったときに、とりあえずサッカーを辞めちゃったら、今の普通の仕事はつまらないだろうなと思って。じゃあそのサッカーと同じくらい情熱を注げられるような仕事はないのかなって思ったときに、なんとなく法律の仕事ってかっこいいっていうすごく甘い気持ちからなんです。
まったくスポーツとは正反対の職業だし、チャレンジするにはいいかな、やってみようかなって思って、勉強を始めたっていうのが始まりですね。
≫≫ 「町の法律屋さん」は1番自分に合っている

まず、選ぼうと思えば弁護士、行政書士、司法書士のどれでも選べ、勉強することはできたんですけ
ど、内容を見ると行政書士が一番自分に合っているんじゃないかと思ったんです。
弁護士になるために今から5年、10年と勉強をするのはもったいないと思ったんです。法律をずっと勉強したいって思っていたわけでもないので、もうちょっと気軽にと言ったら変ですけど、肩の荷の軽い法律家がいいと思ったんですよ。あと、たまたま僕の父が弁護士にはなっていないんですけど、法学部だったんです。法律家といっても、正義ばかりじゃないということ小さいころに聞いた記憶もあったんで。
司法書士はメインが建物や土地の登記なんですよ。家を買った、『じゃあこれは誰々さんのものですね』って国に登記するんですけど、その仕事ばかりじゃ自分は続かないかなって思っていました。
じゃあ、行政書士って何ができるのかって言うと、基本的には法律を使って許認可申請を取ったりとか、法律相談をしたりするんです。でも、もうちょっとフランクなんです。よく「町の法律屋さん」なんて言われているんです。本当に気楽に、一般市民に対して法律相談ができるっていうのがあったので、1番それがいいかなって思ったんです。
≫≫ 必然的にスポーツ法務へ
最初は、法律とスポーツを絡めることは全然考えていませんでした。しかし、試験に合格して、いざやろうと思ったときに、仕事の幅が広すぎて、法学部出身で法律専門でやっている人たちと今さら立ち向かおうと思っても、自分でやっていてもどうかなって思ったんです。
弁護士と行政書士って、司法書士みたいに登記の専門、税理士みたいに税理の専門というように専門分野がないんですよ。弁護士は法律関係ならなんでも首を突っ込めるし、行政書士も扱う仕事が許認可だけで1万種類以上あるって言われているんですよ。さらに法律相談もできますしね。
じゃあ、何か自分の得意な分野で何かうまくマッチングできる分野は無いかなって考えたときに、やっぱり自分はずっとスポーツをやってきて、スポーツ関係の人脈がある。もしかしたらスポーツ分野って結構法律知識とか契約の知識とか必要なんじゃないかなって思ったんです。
そこで、ちょっと投げかけてみたら、『そういう人、ぜひ欲しいんだよ』って言われたんです。スポーツの業界だったらそこそこ僕も詳しいので話しやすいですし、人脈もあるのでっていうので始めたのがきっかけですね。
法律だけ知ってても駄目だし、スポーツのことだけ知ってても駄目。法律とスポーツの現場っていうのを、うまくマッチングできるような人材が1番適してるのかな。それがもしかしたら自分じゃないかなって(笑)。
≫≫ スポーツ法務事務所開業

事務所は僕が1人で全部やっていて、行政書士だけではできない部分は、一応仲のいい弁護士に頼んでいますね。できれば将来的には全国的にネットワークを張ってきたいなっていうのがありますね。僕らが全国を飛び回るのか、もしくは僕らみたいな考えを持っている法律家の先生がどんどん出てきて、横のつながりでやるのかっていうのはまだ分からないですけど。
現状だと、関西とか北海道といった事務所のある東京から離れた場所の人からもメールが来ます。『スポーツでやっている先生が他にはなかなかいないんで、ホームページを見て連絡しました』っていうのが実際あるんで、全国的には実際足りてないなって気がしますね。
――と、今回は谷塚さんがスポーツ法務専門の法律事務所を開業するまでの経緯のお話でした。次号は実際のお仕事の内容、また法律家といった視点から見た日本のスポーツについてなどをお送りします。
――谷塚 哲さん プロフィール――
やつかてつ。1972年、埼玉県生まれ。東京都行政書士会渋谷支部所属。中学、高校、大学と全国レベルでサッカーを続け、大学卒業後も仕事の傍ら関東社会人サッカーリーグでプレー。東京都代表として国体優勝も経験する。3年前に選手を引退し、行政書士となる。2005年度よりスポーツ法務専門の法律事務所を開業し、自らの経験と行政書士としての知識を活かし、スポーツ法務の専門家を目指す
事務所ホームページ:http://www.geocities.jp/yatsukagyouseishoshi/
舟橋 弘晃、神谷 隆太