少し間は空いてしまいましたが、7月17日号に引き続き、宮嶋さんのインタビュー後編をお届けします。今回もジャーナリストから見たスポーツの世界について語っていただきました。
■メディアという世界
選手でもない、観客でもない。そんなメディアという立場にいる宮嶋さん。
“伝える”という役割の難しさについて話していただいた。

私はいつも初心者にもわかるようにということを心がけています。スポーツをわかっている人たちに説明をするのではなく、スポーツをあまり知らない人でもわかるようにというところから番組を作りたいな、っていつも思っているんです。自分の原点もそこにあるからといえばそうなのですが、常に視聴者のみなさんがついてこれるかなぁ、大丈夫かなぁ、って考えながら編集しています。
取材のときに気をつけることは、いかにアスリートの邪魔にならないか、それに尽きます。実は数年前、取材中の人との距離のとり方に関して、あるコーチから天才的だってほめられたことがあるんですね。そのことは今でもちょっと自負しています。寄っていってもいいなってときはひょいひょいと寄っていって、すすっと聞いたりするけど、基本的にその人が何かを真剣にやっているときは絶対に邪魔しない。邪魔にならないところで取材をするということですね。まあ30年もやっていればそのタイミングはわかってきて当然かもしれませんけれど。
本来のあるべき姿は、スポーツのためのメディアだと思うんです。でも今はメディアのためのスポーツになってきていますよね。さらに、ちょっと前まではスポーツサイドが行う試合をテレビ局が映すという単純な形だったのだけど、今はスポーツ側に入り込んでいろんな準備段階からテレビ局がやるようなシステムに変わってきています。中にはきちんとした試合というよりも単なるエンターティメントになっているものもある。もうスポーツは視聴率を上げるためのツールという扱いになってきている、そう感じますね。
私の師匠である松中英忠さんが言っていた言葉にあるのですが、テレビというものは基本的には「いろんなものが入っているおもちゃ箱だ」と思うんです。右も左もいろんなものの考え方が入っているから面白いんだということですね。エンターテインメントがあったり、お笑いがあったりする中にスポーツという分野もしっかりあるべきだと思うんです。スポーツが今これだけエンターテイメント的なものとしてクローズアップされてる時代だからこそ、本当はそれをきちっと見ていくスポーツジャーナリズムもテレビの中になければならないと思います。
■日本のスポーツジャーナリズム
ジャーナリストとして日本のみならず世界へも活動の範囲を広げている宮嶋さん。
海外と比較すると、いったいどんな日本のスポーツジャーナリズムの問題点が見えてくるのだろうか。
特にスポーツジャーナリズムの場合にはそうなってしまっているのでしょうが、日本のスポーツ界の中にある上意下達の体育会系のものを引きずっていることがひとつの特徴だと思います。日本人特有の、人間のつながりでナァナァでやろうっていうものがあって、どうしてもメディアが、きちんと批判したりするというところが弱いと思うんですね。今のようにテレビ局がどんどんスポーツにおける娯楽性、エンターテインメント性を追求している中で少しでも批判すれば、「そんなことで水を差すなよ」と言う声も聞こえてくる。スポーツ放送には、娯楽性もあるし記録性もありますが、やはりきちんと批評していく構えがないと成り立たない部分があると思います。

私はやはり選手を守りたいと思うし、システムによって選手がゆがめられるのはいけないと思うので、現場できちんと判断をしていきたいと思っています。守るべき選手は守らなければならないし、いいシステムがあれば、それはいいですねって言っていかなければならない。もちろん選手サイドが間違っていることもあるので、それは指摘していかなくてはいけない。私たちはちゃんとアンテナを張って、きちっと報道していかなきゃいけない。エンターテインメントとしてのスポーツ中継とは一線を画していかなくていけないと思います。報道なんです、私たちがやっていることは。そこはちゃんとしなきゃいけないと思っています。
日本では選手に対しても甘いと感じます。海外のジャーナリズムは選手に対しても、おかしければおかしい!とはっきりいいますから。結局それが、選手を最終的に守ることにつながると思います。
スポーツはいろんなものに利用されてしまう、という弱点があります。スポーツってホントは人間が楽しむためのものなのに、他のものに利用され過ぎている。本来のスポーツの目的って何なんだろう?ってこの30年間ずっと考えていますよ。軍事訓練に利用されたり、国威発揚に利用されたり、お金儲けに利用されたり・・・。利用されることを上手に使うことによってスポーツビジネスが成り立って、スポンサーがついて、自分たちの練習環境が確保できたりする人たちもいるわけですから一概にそれが悪いことだとは言えません。しかし自分の中で生理的に受け入れられない部分がどこかにあるんです。甘い、といわれればそうかもしれませんけれど。
本当はスポーツって誰もができて、みんなが体を動かす面白さを知ることができて、心も身体もむちゃくちゃ開放される、そんな楽しさがあるものなのに、そういった原点をどこかに置き忘れてるなぁって考えてしまいます。
■盆踊りは立派なスポーツ
宮嶋さんに、日本のスポーツ文化とは何か問いかけてみた。そもそも日本に“スポーツ文化”と呼べるようなものは、根付いているのだろうか?
基本的に近代スポーツは個人の中の快楽をベースにしていると思うんです。でも日本って、前提となる個なんかないんですよ。長い農村文化の中で個は消されてきた。そのDNAが今でも生きている。日本の民族は、昔から歌舞音曲はすごく好きだと思うんですよ。象徴的なのは、竹下内閣の時のふるさと創生資金、「1億円あげるからそれぞれの村で何かやりなさい」って言われたときにできた日帰り温泉の数ですよね。温泉掘って、畳の部屋に舞台を作って、踊りやカラオケができるようにしているんですよね。よくスポーツ振興のための会議で言ってきたことなんですが、その横にグラウンド作ったらどうですかって。グラウンドでちょっと汗流して、そのあと温泉入って、そのあといっぱい飲んで、

みんなでわいわい楽しむのがいいんじゃないですかって、よく言ってたんですよ。でも、なかなかグランドを作るというところまではおやりにならない。日本人にとって脈々と受け継がれてきた農耕文化の中でほっと一息を付く開放された時間に行うのは、踊ったりとか、歌ったりという歌舞音曲だったんじゃないかなって思うんですよね。だから、明治になってヨーロッパの近代スポーツってものをそのままごっそり日本に持ってきたわけですが、世の中全体が今はヨーロッパ志向で欧米化されてますから、それはそれで成り立たないわけじゃないのですが、日本人古来の運動っていったらやはり盆踊りかなって思うんですよね。(笑)。あとは、やっぱり諏訪のお祭りの中にある御柱みたいなもだとか。あれだってすごいスポーツだと思いますよ。あんな柱の上にみんなが競い合って乗ったりだとか、先を争って上にのぼっていくとか。お祭りの中に原始的な日本のスポーツの原型がいっぱいあるように思いますね。でも、どこか個人が競う西洋のものとは違うのかな、って気はしますね。もちろんスポーツっていうのは、今の日本では教育の中でまず教えられるわけですが、やっぱり近代スポーツのベースとなる個というものが、きちんとない中でのスポーツですから、そこでいろんな矛盾が起こるんだろうなって思います。その最たるものが、体育会系の上意下達に象徴される人間関係なのかなという気がします。
じゃあ、いつ日本人の個はできるのかといえばやはり、高齢になってからではないかと思うんです。水泳をしてらっしゃるおじいちゃん、おばあちゃんの姿はとても素敵だと思いませんか?高齢者のみなさんは自分を解放しながら楽しんでる、個だなっていう感じを受けるんですよね。日本人の個というものは若いときはあまり充分には発揮できなくて、いろんな社会の中で言いたいことを我慢してきて、ようやく仕事などをリタイアした頃にやっと個を出せるようになってくるんのかもしれませんね。社会の中で我慢してきた人たちが、さぁこれから自分の時代というときに、自分のことがしっかり主張できるような気がするんですよね。こんなことを言うと、俺たちだって十分に個を持っていると若い人たちに怒られるかもしれませんね。もう農耕民族じゃなくなっているんだからって。
インタビューの終わりに、‘宮嶋さんご自身はリタイアされたあと何かやりたいことはあるんですか?’と、最前線で活躍されている方には不躾かもしれない質問をしてしまいました。すると_
「どうするんだろうね(笑)。先のことは考えないで、ね。でも一つだけしたいことがあって、学生のときもしていたことがあるんだけれど、朗読のボランティアをやりたいな。それは私の原点なので_。」
と笑顔で答えていただけました。
常に常に前を向いている、宮嶋さんはそんな方でした。
〜プロフィール〜
宮嶋泰子(みやじま やすこ)
1977年早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業
1977年より(株)テレビ朝日編成制作局アナウンス部勤務。1980年モスクワ五輪より2006年トリノ五輪までオリンピック取材は13回を数える。入社時よりスポーツを担当、女性スポーツアナウンサーの草分け的存在となる。1987年よりニュースステーションでリポーター兼ディレクターを担当、現在は報道ステーション、スーパーモーニングなど多数の番組で企画を作り、出演している。
現在テレビ朝日編成制作局アナウンス部部長待遇
テレビ以外の主なお仕事は
* 1995年〜日本体育協会 生涯スポーツ推進委員会委員
* 2001年〜神奈川県スポーツ振興委員会委員
* 2001年〜独立行政法人日本スポーツ振興センター・スポーツ振興基金助成審査委員会委員
* 2003年〜スポーツ少年団機関雑誌「スポーツジャスト」編集委員
* 2003年〜文部科学省 子どもの体力向上推進事業「手帳・カード等作成委員会委員」
* 2003年〜日本体育協会・総合型地域スポーツクラブ育成委員会委員
* 2006年〜日本自転車振興会 公益事業振興補助事業審査評価委員会委員
* 2006年〜NPO法人バレーボール・モントリオール会理事
* 2006年〜早稲田大学スポーツ科学部非常勤講師
<注:〜となって、終わりの年号がついていないものは現在も継続中の仕事です。>
山城 謙、杉野 綾美